東京高等裁判所 昭和33年(ラ)340号 決定 1958年9月16日
抗告人 第三二〇号事件 佐々木満佐代 第三四〇号事件 山梨技芸学院
両名代理人 堀内清寿
主文
原決定を取り消す。
本件を甲府地方裁判所に差し戻す。
理由
抗告理由は、末尾に記載のとおりである。
記録によれば、昭和三一年四月二六日午前九時の本件第一回の競売期日の公告が甲府市役所の掲示場に掲示されたのは、同年四月一二日(記録三九丁の甲府市長作成の公告掲示済通知書に「昭和三〇年四月一二日」とあるのは、「昭和三一年四月一二日」の誤記と認める)であつたことが明らかであるから、右公告と期日との間には法定の十四日の期間を存せず、したがつて右期日における競売手続はこれを無効と認めるべきである。しかるに、記録によれば、右第一回の期日には競買申出がなかつたため、裁判所は新競売期日を定め、右期日にも競買申出がなかつたため、更に新期日を定め、このようにして新期日を定めること数度に及んだ後、昭和三三年五月三〇日午前九時の期日に金丸豊之助が最高価額による競買の申出をしたので、裁判所は同年六月四日同人に対し競落許可決定(原決定)を言い渡したが、右第二回以後の各期日においては、鑑定人の評価額による第一回期日の最低競売価額を順次低減した価額をもつて、それぞれその最低競売価額と定めたことが明らかである。しかしながら、第一回期日における競売手続が無効である以上、その後の最初の競売期日においては、最低競売価額を低減せず、さきの鑑定人の評価額をもつて最低競売価額と定めるべきであつたにかかわらず、前記の如くこれを低減し、その後も順次低減して最後の競売期日に至つたのであるから、右最後の期日における競売手続は違法であり、これに基く競落を許可した原決定もまた違法なるを免れない。それゆえ、第三二〇号抗告理由第一点は理由があるから、他の抗告理由に対する判断を省略し、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 奥田嘉治 判事 牧野威夫 判事 青山義武)
第三二〇号抗告理由
一、後記目録不動産につき原裁判所は競売期日を昭和三十一年四月二十六日午前九時と指定し、同競売期日の公告を甲府市役所掲示場に同年同月十二日公告せしめたことは同日附同庁に対して同市長より公告掲示済通知書によつて明かである。
民事訴訟法第六五九条によれば競売期日は公告の日より少くとも十四日の後たることを要する旨規定せられているにかかわらず十二日の公告は競売期日である二十六日との間に右法定の十四日間を設けていない。
故に同法第六七二条第六号に該当して右公告は法律上の効力を有しない。
随つて原決定は廃棄せられて本件の競落は許さざるものと思料する。
二、仮りに右の抗告理由なしとしても競売法第二七条第二項によれば競売の期日は競売手続の利害関係人に之を通知することを要する旨規定しておるにかかわらず昭和三十一年八月二十七日附の期日通知書及昭和年三十二年六月十五日附並に昭和三十三年五月八日附の各期日通知書は債務者代理人である堀内弁護士に送達せられてあつて所有者には通知が発せられていないのである。
所有者が利害関係人であることは同条第三項第二号に債務者及所有者として明文をもつて規定せられてあるので所有者に通知がないのは民事訴訟法第六七二条第一項第一号に該当し執行を続行すべからざるものと考へられるので茲に抗告申立をした次第である。
第三四〇号抗告理由
一、申立趣旨記載の土地は個人佐々木満さ代が学校法人山梨技芸学院の基本財産として寄附するため昭和三十年一月二十八日相手方より毎坪一万五千円総代金三百三十七万六千三百五十円で買受け内金二百十万円はその際現金を以つて支払い本件抵当権はその残金につき設定せられたものである。
二、然るところ本件土地については曩に提出した異議申立書添付の写真のとおり隣地居住者より境界異議の申出でがありそのためコンクリート塀を築造することが出来なかつたので相手方に申入れたところ相手方の実父金丸二郎(弁護士)が責任をもつて解決して迷惑をかけない旨の保障をしたので安心していたところ昭和三十年十月二十四日本件土地に対する競売手続きが開始せられたのであるが以来引続き沖田弁護士等を介して学校が右境界線の確定につき今日迄交渉中であつた。
三、その後昭和三十一年三月三十一日学校法人が認可となり本件土地は同年四月十日寄附行為によつて学校法人山梨技芸学院に所有権が移転され同登記は同年六月八日完了し以来引続き学校が所有者として今日に至つたものであり前記地主との交渉も学校がその衝に当つて来たものである。
四、相手方よりの前記競売申立後即ち昭和三十年十二月十六日甲府地方裁判所植松執行吏が同庁の命令によつて本件土地に対する賃貸借の有無についての取調べのため現場を調査した際個人佐々木満さ代は本件土地は学校法人の基本財産として校舎屋完成と同時に寄附行為によつて学校法人に所有権が移転せらるべきものである旨並に現に学校法人設立認可申請中であることを申告したのであるが右の事項は同日附同執行吏の記録に編綴せられておる報告書に徴して極めて明瞭である。
尚校舎屋は当時既に略完成していたものであるから設立認可の申請をしていたもので同申請に基き翌年三月三十一日前記のとおり学校法人の設立は認可せられたものである。
五、抗告人は前記のように競売開始決定後土地の所有権を取得したものであるが競売代金の残額を取得し得る等の利害関係を有するものであるから競売法第二七条第二項第三号の所謂登記簿に登記した不動産上の権利者に該当するものと解する。
仮りに若し右条項に該当しないとしても同項第四号の不動産上の権利者には包含せられるものである。
故に執行裁判所は斯る場合競売期日の指定に当つて登記官吏に委嘱して当該土地の所有権者を確認するか或は更らに執行吏をして賃貸借の有無について調査せしむるか何れかの方法によつて利害関係人の範囲を確定すべきものであると信ずる。
仮りに執行裁判所に前記の如き調査義務なしとするも登記官吏は競売法により競売の申立てのある不動産についてその後所有権を取得したものである場合は職権をもつて裁判所にその所有権が移転せられた事実を通知する義務がある。
登記官吏の斯る義務の懈怠より本件土地所有者としての利害関係人たる抗告人に対して競売期日の通知を欠如したのは競売法第二七条第二項に反しているから本件競売は許さるべくもない。
六、本件土地上に建設せられてある前記校舎屋に対して第三者より同じく甲府地方裁判所に競売の申立がなされたのであるが抗告人より競売異議申立の結果同庁昭和三十一年(ヲ)第五七号により競売取消の決定を受けたものである。
これによるも本件地上に建物が築造せられており且つ学校法人山梨技芸学院が地上建物の所有者であることは裁判所に顕著であつてこの点よりしても抗告人が不動産上の権利者であり且つその権利は証明せられているものといわねばならない。
でないと学校は競落人元地主のために土地代金二百十万円を没収された上建物は不法占拠で収去される危険にさらされているからである。
以上何れにしても本件競落は競売法第二七条に違反し民事訴訟法第六七二条に該当するものとして原決定は廃棄を免れないと信ずる